ジョイセフ事務局長 鈴木良一によるコラム
日本の人工妊娠中絶の減少傾向続く:15歳~17歳で大幅減少、しかし40歳台では3年連続増加

2014年度の中絶件数18万1905件


厚生労働省が2015年11月5日に、平成26年度(2014年度)「衛生行政報告例」を発表しました。この中で、毎年人工妊娠中絶の届出の統計が発表されています。平成26年度の人工妊娠中絶の届出総数は、18万1905件と前年度よりさらに4348件(2.3%)減少しました。

かつて、昭和30年(1955年)(この時期は暦年で集計)に過去最高の117万143件あった人工妊娠中絶が18万台に減少したことは、母子保健・家族計画の知識や情報の浸透、性感染症予防のための手段の普及(コンドームの使用)による避妊効果や性教育の実施などの観点から大きな成果があったからだと言えます。また、最近では緊急避妊法等の周知・普及も中絶の減少に寄与していると考えられます。

15歳~17歳で大幅減少、40歳台では3年連続微増


さて、年齢別、地域別の分析もしてみたいと思います。まず、年齢別にみると40歳台以外では減少しています。20歳未満では7.8%の減少で、特に15歳~17歳で大きく減少しました(16.3%)。しかし、40歳台では、3年連続で微増しているということが明らかになりました。40歳台では、すでに子どもを産み終えて予期しない妊娠があったというケースが多かったと思われます。今後の対策のためにも専門家による分析が課題です。

人工妊娠中絶実施率(15歳~49歳女子人口千対)は、全体では6.9、20歳未満では6.1となりました。年齢階級別では、20~24歳が13.2と最も高い比率を示しています。既婚者で妊娠を望まない女性、未婚であるため産めない状況などの結果であろうと推測できます。

都道府県別の実施率


都道府県別で見ますと、実施率では、奈良県が最も低く3.4、鳥取県が10.4で最も高い数値が平成21年の報告から続いています。明確な地域格差が出ています。今後その背景にある原因を調べなければならないと思います。また、それに合わせた積極的な対策が待たれます。避妊に対する知識や情報不足、避妊手段が入手しにくい状況等が考えられますので、今後の対策が必要です。

かつて、避妊の失敗は中絶で解決するかのような、社会的な通念があった昭和30年代から多くの努力によって、この日までに18万台にまで減少させてきました。しかし、いまだに18万件を超える中絶が実施されていることは看過できません。そこに多くの女性の苦悩、悲しみや涙があったはずです。中絶件数が完全に「ゼロ」になって初めて母子保健・家族計画関係者の尽力が認められるのではないでしょうか。道のりは長いように思われますが、包括的な性教育と避妊や性感染症予防教育、それに付随した実践的指導が待たれます。

中絶:世界の実態は


世界全体の中絶の実態が分かりづらいのは、多くの国々が中絶を違法としているからです。違法であるがゆえに実態が表に出づらく不明な点が多いのです。少し数値が古くなりますが、国連やグッドマッハー研究所などが調査した推計では、2007年に4200万件(内48%が安全でない中絶)、2008年には4380万件などと発表されています。最新情報がありませんが、現在でも同様の数値を示していると推測できます。また、国際家族計画連盟(IPPF)によれば、毎年4万7000人の女性が、安全でない中絶による合併症で死亡していると報告されています(IPPF Vision 2020ジェンダーレポート)。

これらの事実は、リプロダクティブヘルス・ライツの重要な課題です。国によってはカソリックやモスレムなどの宗教的な課題もあり、中絶について正面から取り組めない状況もあります。合法的でないがゆえに危険な「闇中絶」による死亡率も高いのです。4000万件以上の中絶の事実は、世界の女性が命や健康を守る意味からもいまだニーズが満たれていないという実態を如実に物語っています。

(2015年12月、東京にて)
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# by joicfp_rio | 2015-12-28 18:16
日本で女性の梅毒感染者が増えています ―性感染症について再び喚起
最近気になることのひとつに、日本における性感染症患者の増加があります。

梅毒患者が1999年以降初めて2千人を超えたことを、最近、国立感染症研究所が報告しました。その中でも、女性の感染者が増えていることが見逃せません。今年の新たな感染者のうち76%が15歳~35歳の若い女性です。

厚生労働省は、最近「女子の梅毒、増加中!」というリーフレットを作成し、配付し始めました。女性の梅毒患者が増加傾向にあることを喚起する、広報啓発用に作ったものです。その中で、女性の感染者が、この5年間で約5倍に増えたことにも言及しています。梅毒だけでなく、性器クラミジア、性器ヘルペスなど、女性が感染すると死産や胎児の障害、不妊症や流産の原因になるなどの問題にも触れています。

12月1日は、「国際エイズデー」でしたが、国連エイズ合同計画によると、世界でHIVとともに生きる人口が、現在3690万人であると報告されています。そのうち41%が治療法にアクセスがあるとされていますが、多くはそれさえもできない状態におかれています。新規感染者では、世界的に見てその約38%が、25歳以下の若い世代で占められていると発表されています。

一方では、幸運にも治療法が進歩していることもあり、HIVであっても死に至る病ではなくなってきているのは事実です。死に対する不安が消えたとはいえ、先述したように性感染症は、いろいろな後遺症や悪影響があることを忘れてはなりません。

先進国の中でも、新規のHIV感染者の増加が懸念されています。梅毒もHIVも性感染症であり、感染症ごとの予防の処方箋はありません。それは、「リスクの高い不特定多数との性的接触を避け、コンドームを適切に使用すること」に尽きるのではないでしょうか。

このような状況下で、再び、性教育や性感染症対策の強化が必要であるのは言うまでもありません。知識や情報のみならず、性行動の責任と相手への思いやりなどについての行動変容のためのコミュニケーション(BCC)が今、さらに必要であることを再認識しなければならないと訴えたいと思います。他人事ではなく自分の問題であるという意識が重要なのです。また予防教育はできるだけ早期の、性交渉を始める前の、年齢から始める必要があることも強調したいと思います。 

(2015年12月、東京にて)
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# by joicfp_rio | 2015-12-22 15:21
母子保健にプライオリティを(ミャンマー)
選挙後のミャンマー、新政権に期待

2015年11月8日は、ミャンマーにとって歴史的な一日となりました。

1990年以来四半世紀ぶりに、民主的な総選挙が平和裏に行われ、結果はすでに報道されているとおり、野党・国民民主連盟(NLD)の圧勝でした。

1948年の独立以来、ミャンマーの選挙では、国民の総意がその直後に軍によって阻まれたり覆されたりの連続で、国民はこれまで何度も苦汁をなめさせられてきました。しかし今回は違いました。100以上の政党による選挙戦が公明正大に行われ、敗北した現政権(軍政側)も民主的な選挙の結果を認めるという画期的な選挙となりました。国民の一票がそれぞれの選挙区で意味があり、価値があるものとなったということです。

どの政権であれ、国民の意思を最大限に尊重するようになって初めて、ミャンマーは真に胸を張れる民主的な国家としての地歩を築いたと言えます。2016年3月には、新しい大統領が選ばれ、ミャンマーは新しい一歩を踏み出す予定です。

母子保健の改善に向けた投資を

ジョイセフの事務局長としては、ミャンマー政府には今後も、国民の視点に立って保健分野の重点事業を決めること、特に、母子保健やリプロダクティブヘルス(RH)関連の状況を改善する努力を惜しまないで欲しいと願っています。

これらの分野は、政治や経済の大きな課題の影に隠れてしまいがちですが、新たな国づくりのためには非常に重要な分野です。特に、助産師等の保健人材の育成、増員、配置にさらにプライオリティを置いて欲しいと思います。国民の支持を得て選ばれた新政権として、「人々への投資」に傾注して欲しいと考えます。

私は、ミャンマーが、保健や教育の重点課題にどのように取り組んでいくか、注目していきます。これらの課題を解決していく中で、ミャンマーの女性の地位向上やエンパワーメントにも更なる発展がみられることでしょう。ミャンマーの新政権にエールを送りたいと思います。

ちなみに、当方で入手した、アウンサンスーチー女史の率いる国民民主連盟(NLD)の「マニュフェスト」では、保健政策の章で、「基本的な保健ケア提供の拡大」、「妊産婦及び乳児死亡率の低減」、また、「栄養不良の予防」などの対策の強化が既に明記されていて、今後が期待されます。

参考までに、母子保健・RH関連の指標を抜粋しておきます(順不同)。

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(2015年12月、ミャンマー・ネピドーにて)
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# by joicfp_rio | 2015-12-14 14:04
「触れるケア」の原点を考える
ナイチンゲールの看護の原点

看護のパイオニアと言われるフロレンス・ナイチンゲール(1820-1910、英国人)が、看護の原点について、看護とは人間の持つ「自然治癒力」を高めることにあると述べています。そして、看護師の使命はまさにそこにあるとも言っています。

クリミア戦争の時も、患者の自然治癒力を高めるために、患者のおかれていた環境を変えることを率先的に実践し、患者の自然治癒力を高めたという記録が残っています。具体的には、患者の包帯を衛生的なものに取り換えたとか、病室の喚起や自然光の導入に努めたとか、カーテンを洗って気持ちのよい環境をつくったなど多くの逸話が残っています。患者の治療はもとより心のケアとか良好な環境の整備に努めることも看護師の使命であることを示したのです。

ナイチンゲールは患者の手をしっかりとにぎりしめて、優しいまなざしで患者を見つめ、時には優しく話しかけ、時には勇気づけ、元気づけたのではないかと想像できます。そして、そこに私は看護の原点を見るような気がします。


触れるケアで救われる人びと―未熟児から認知症患者まで

今、改めて、スウェーデンで1960年代に開始された「タクティールケア」(タクティールとは「触れる」ことを意味するラテン語)という看護の手法が注目を集めています。これは、当時、未熟児のケアに当たっていた看護師たちが、保育器の赤ちゃんに「触れる」ことで、生存率を上げられることに気付いたことに始まっています。日本でも「手当て」するということが、重要な看護やケアの原点であると言われています。その後、スウェーデンでは、手を触れることによって、不安や怒り、イライラといった精神症状を緩和することがわかり、いまでは広く応用されているとのことです。ハグ(抱きしめられる)することで落ち着きを取り戻すということもわたしたちの日常生活でも多々あります。

機械文明、医療技術や検査技術の発展は目覚ましいものがあります。それらの発展によっていかに多くの命が救われているかは計りしれません。しかし、患者は「病気そのものではなく」、その前に、これらのことは、人間であることを教えてくれています。

人としての尊厳が守られることや、人から人に伝わる心のふれあいが、人の気持ちや患者の自然治癒力を高めるということがさまざまな角度から証明されているのです。

タクティールケアは、最近では、認知症の患者へのケアにも応用されています。認知症の患者に対して、手や足、背中を手でやさしく、やわらかく包み込むように、ゆっくりとなでることによって、患者の意識や体調に劇的な変化を見せることがあると言うこともわかってきました。

「触れる」とか「手当て」について、そのもつ奥深い意味を改めて考えてみたいと思います。

(2015年12月、東京にて)
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# by joicfp_rio | 2015-12-11 10:34
中国「一っ子政策」の廃止を決定、その影響は
2015年10月29日に、中国共産党の中央委員会全体会議が、1979年から続けてきた、いわゆる「一人っ子政策」を廃止し、すべての夫婦に「2人目の子ども」を容認することを決めたというニュースが報じられました。理由としては、行き過ぎた一人っ子政策により、近い将来に中国社会は労働力不足と急速な高齢化社会に直面することになり、経済成長が減速することになるのではないかという懸念からであるとしています。

その一人っ子政策について私なりに考えてみたいと思います。

私は、一人っ子政策が開始された翌年(1980年)6月27日~7月10日、今から35年前に中国に派遣された「計画生育視察訪中団」(全15名)の一員として参加し、一人っ子政策を中国各地で視察してきました。開始からわずか1年目でしたが、視察した中国のどこに行っても一人っ子政策の基本政策を繰り返し聞かされました。

北京、西安、成都、上海と回り、一人っ子政策に携わる多くの幹部たちの覚悟を聞きました。誰一人として少しもぶれることのない、「紀元2000年までに中国の人口は10億人以下にとどめなければならない。一人当たりの国民所得は1000ドルにする。」という言い回しでした。そして「晩婚、晩育、少産、優生」を提唱し、これは「現在の世代の責務であり、将来をつくる現世代の任務である」と繰り返していました。

当時ミッションで同行したメンバーが、人権への配慮が足りないことを懸念していたのを覚えています。

その後、1984年からジョイセフと中国は協力事業として、住民一人ひとりの健康向上の視点をもつ「家族計画・栄養・寄生虫予防インテグレーションプロジェクト」を推進しました。中国はこのプロジェクトの熱心な推進国となり、その後中国全域に及ぶ壮大なプロジェクトとなりました。これは中国において一人っ子政策との好対照プロジェクトとして実施されました。

中国はその間に、目を見張る経済成長を遂げ、社会主義的な政策よりも経済重視の取り組みが主要政策となり、一人っ子政策も大きく変貌してきたのではないかと思います。

その間に一人っ子を育てる親のモティベーションも変わってきました。特に、都市部において一人っ子政策は、子どもを育てているカップルにしてみれば、子どもに対する価値観を変えるものとなりました。与えるべき教育レベルも、35年前とは大きく変わりました。最近では海外留学も視野に入っています。

極論すれば、いま一人っ子政策を廃止したからと言って、生活の質の向上を目指してきた人々は、すでに後戻りできないのではないでしょうか。ましてや、今の世代はその一人っ子政策下で生まれた世代ですから、さらに難しいと考えます。かつて子どもが労働力として、あるいは老後の保証などと言われていた価値観とは隔世の感があります。

農村地域における一人っ子政策の廃止についてはある程度の期待感があるかもしれませんが、周知の通り、現状でも少数民族や農村地域では例外措置がとられていて、条件によっては、2人目の出産も可能となっています。つまり一人っ子政策の廃止がどこに向いているのかと問わざるを得ません。

違う視点で見てみますと、アジア地域の中国文化圏と言われる国々での合計出生率(TFR)がすでに置き換え水準を割っています。『世界人口白書2014』によると2010年から2015年のTFRの年平均では、香港1.1、韓国1.3、シンガポール1.3、日本1.4など一人っ子政策を採用していない国々でもTFRが2を極端に割る状態になっています。ちなみに中国は、現在1.7です。
中国の経済成長は、他の中国文化圏よりも、さらに早いスピードで実現されています。「子ども」は、もはや中国においても「消費財」であり、決して「生産財」ではないと言えます。かつて日本でもそうでしたが、子どもに対する価値観に「投資」という考え方が出てきているのはないでしょうか。

子どもは数でなく、高学歴や社会的経済的機会の拡大等の質を問われる時代にすでに入っています。いったんついたそれらの「ハズミ」は、トップダウンの政策では変えられないものとなっていると言えます。中国においても、個人の意思が重んじられる時代へと入っています。子どもを労働力などと考える親はもういないと考えられます。

現実問題としては、中国の物価の上昇により生活費や教育費が高騰し、国全体で保育園がすでに不足していると聞きます。共働きの現状を変えることはできないなどの状況を踏まえると、今回の政策変更の効果は疑われています。
今後の推移を見守りたいと思います。

(2015年11月、東京にて)
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# by joicfp_rio | 2015-11-18 12:32


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