ジョイセフ事務局長 鈴木良一によるコラム
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エボラ出血熱 -医療従事者の死亡による妊産婦死亡率の増加予測
最近公表されたエボラウィルス感染症(エボラ出血熱)の標記に関するシミュレーション値が発表されました(Speybroeck et al)。

ご存知の通り、西アフリカのギニア、リベリア、シエラレオネで蔓延したエボラ出血熱により多くの医療従事者が亡くなりました。それに起因して、各国の妊産婦死亡率がそれぞれの国で増加するのではないかとの予測が今回の調査で明らかになりました。

エボラ出血熱により、ギニア、リベリア、シエラレオネで治療にあたった医師、看護師、助産師等の医療従事者のうち、各78名、83名そして79名が犠牲になりました。この死亡数は各国の全医療従事者のそれぞれ1%、8%そして7%に当たります。エボラ出血熱で、感染地域やその周辺地域の医療施設に、近隣の人々が立ち寄ることができない状況にもなりました。

この影響により、各国の妊産婦死亡率が、この度の試算では、高位推計で、ギニアで38%、シエラレオネで74%、リベリアにおいては111%の増加になるとの推計が出ました。低位推計値をとったとしても、それぞれギニアで26%、シエラレオネで51%、そしてリベリアで76%の妊産婦死亡率の増加が推測されました。さらに、その影響により乳児及び5歳未満児の死亡率も、7%から20%、10%から28%の低位・高位推計が出ています。

なお、引き続きの分析が行われることにはなっていますが、いずれにしても、エボラ出血熱による直接的な死亡だけでなく、エボラによって死亡した医療従事者の減少により、妊産婦死亡率や乳児・5歳未満児の死亡率が増加するであろうことが今回の調査で判明しました。エボラ出血熱のような広域的な広がりを見せる感染症の第2次被害者の拡大がこの調査によって明らかになったのです。

ワクチンの開発とあわせて、感染症対策における医療従事者の予防対策の必要性や感染を拡大させない隔離対策等が喫緊の課題となっています。ここ数年のエボラ対策のあり方について、各国各機関で今後さらに積極的な緊急の対策をとるべきであるという教訓を多く残しました。いつ何どき、再度感染が始まるやもしれません。あらゆる人智を尽くして対策を施してほしいと思います。

(常務理事・鈴木良一、2016年3月、東京にて)
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by joicfp_rio | 2016-03-30 15:45
国勢調査―日本初の人口減、1億2711万人
2015年国勢調査の速報値が発表され、前回の国勢調査から10年経過し94万7305人(0.7%)の人口減少が判明しました。1920年の第1回目の国勢調査以来、初めての人口減となりました。

これをどのように見るかは、いろいろと意見があるとは思いますが、多くの方々は、超少子化、超高齢化が進んで、そして、ついに人口減少が始まったのかと懸念するのではないでしょうか。

今回の調査では、首都圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)及び愛知県、滋賀県、福岡県、沖縄県で人口は増加しました。この1都7県を除くと、軒並み人口減少となっています。東京圏の一極集中がさらに進んでいます。一方、大阪が戦後初めて減少しました。

減少率では、秋田県が5.8%、次いで福島県で5.7%となりました。それぞれ2010年比で63,158人、115,458人減少となりました。福島県は、津波や原発の関係で起こった人口減少が一番大きく影響したと思われます。東北3県(岩手、宮城、福島)の沿岸部では減少率10%を超える市町村が多数ありました。

世帯数では全国で、5,340万3,226世帯。1世帯当たりの平均人数は2.38人で、過去最低となりました。

今後の更なる分析が待たれますが、人口は数だけの問題ではないと私は考えています。人口を構成する一人ひとりの個々の質の高い生活(QOL)の視点も忘れてはならないと思っています。

(常務理事・鈴木良一、2016年3月、東京にて)
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by joicfp_rio | 2016-03-23 13:50
明石研究会提言英語版完成: 『開かれ活力ある日本を創る-鍵を握る女性、若者、高齢者と外国人』
人口問題協議会明石研究会(事務局:ジョイセフ)は、明石康会長のもとで、定期的な研究活動を実施してきています。2013年度の総合研究テーマとして標記のタイトルを掲げて各分野の専門家による研究報告を行い、研究会で議論を重ねてきました。本提言は2014年12月に日本語版報告書として発表され、2015年初頭、立法府、政府、地方自治体などに配付して有効活用されています。

明石康会長の巻頭言の中から抜粋してみます。

超高齢・人口減少社会をもたらした超少子化状況はここ数年若干変化の兆しを見せたとは言え、将来の人口動向を急転回させるほど大きな変化とはなり得ていない。超少子化をもたらしている社会のひずみはいまだ十分に修復されていない。

このような人口変動がもたらす時代の課題に対しては、制度面、経済面、技術的な面からの対応も求められるであろうが、本提言では、主として人材、つまり人的資源確保のための方策に焦点をあてる。

前途有為な若者たちと、才能に満ち溢れた女性たち、そして経験豊かな高齢者が、これからの日本を引っ張り、押し上げていくことができると、私たちは信じている。また外国人労働人口の受け入れ拡大も視野に入れて長期的・国民的見地から考えるべきである。

日本の社会経済基盤をつくり上げることのできるのは、まさに政治の力であり、政治に携わる人々のリーダーシップであると言えよう。学界、経済界、メディア、市民社会との幅広い連携と協力は、そのための力強い後押しとなるはずだ。

人口問題協議会・明石研究会は、本提言『開かれ活力ある日本を創る-鍵を握る女性、若者、高齢者と外国人』を通して、日本社会に人的資源の有効かつ最大限の活用を強く訴えるものである。

この度、本提言が国連人口基金(UNFPA)東京事務所のご支援をいただき英語版を上梓できました。この提言書は、日英語版とも、ジョイセフのホームページにてご覧いただけます。是非ご一読いただけましたら誠に幸です。

(2016年3月、東京にて)
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by joicfp_rio | 2016-03-16 17:33
市民社会との連携-妊産婦や女性の命を救うために
ジョイセフは、市民社会との連携およびネットワークを通して、日本の市民一人ひとりのあたたかい支援が、開発途上国の妊産婦や女性の命を救う現場に直接届く支援事業を構築してきています。

ジョイセフを支援して下さる多くの個人、団体、企業とともに途上国のコミュニティのニーズやコミュニティに住む一人ひとりのニーズに合致した支援事業、たとえば、ソフト面では、助産師の研修、母子保健推進員の研修、ピア(若者)エデュケータの育成など、またハード面では、ソーラパネルの増設、水タンクの設置、保健施設の補修などのように、必要に応じて、メニュー化し活動経費も算定しパッケージ・プロジェクトを形成しています。また、災害時の緊急支援にもあてられます。

ジョイセフは、アフリカやアジアの農村に暮らす一人ひとりの女性や妊産婦のためになる地域に根差した保健活動や施設の改善を後押しすることを使命として目指しています。

いまなお、開発途上諸国を中心に妊産婦の命は危険にさらされていると分析されています。最新データ(2015年推計)では、世界で毎日約830人、年間で約30万3000人の女性が妊娠や出産が原因で命を落としているという現実が、私たちに突きつけられています。世界が抱える多くの開発の課題の中でも、私たちジョイセフが1968年の発足当初からミッションとしている母子保健、家族計画等を含むすべての人々のための保健の課題、とりわけ保健やRH/Rサービスや情報へのアクセスの改善ではいまだに多くの課題を残しているのです。

ジョイセフは、一人でも多くの方々に、私たちの活動へのご理解をいただき、途上国の女性や妊産婦のおかれた現状をさらに身近に感じていただき一人でも多くの命を救うために、また健康の改善のために、支援の手を差し伸べていけたらと思っています。

ジョイセフの使命は今後もさらに続きます。

皆さまの力強いご参加をいただき、支援の輪をより大きく広げていきたいと思っています。引き続きのご支援ご協力をどうぞよろしくお願いいたします。

(2016年3月、東京にて)
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by joicfp_rio | 2016-03-16 12:04
東日本大震災から5年- 被災者支援活動レポート発行
すべての日本人にとって、2011年3月11日は忘れられない特別の日となっています。振り返るたびに、いろいろな感情がこみ上げてくるのではないでしょうか。その思いも時間の経過とともに変化してきているのもまた事実です。

はじめのころには、体の震えるような悲しさ、喪失感、そして、もっと何かができたのではないかという後悔や原発への怒りもありました。もちろん被災者や避難した方々には、そんな容易なことではなかったと思います。

人間は、いつも未来に向かって生きていくものであると信じています。過去はどのようにしても変えられません。未来は自分の力で必ず変えられるものです。

この5年間に噴き出た多くの感情や思いは、きっと、ひとりひとりが未来を築くときの確かな原動力となるものであると思っています。多くの被災者の方々も、経過とともに変化し、先に進む力が、みなぎってきていると感じます。

わたしたちジョイセフは、東北の人々の変化するニーズに合わせた支援を、震災直後から開始し、今日まで5年間、地域の関係者、関係機関とともに行ってまいりました。地域や被災者のニーズになるべくあった支援活動を実施してきたつもりですが、どれだけお役に立ったかは皆さまからのご判断をお待ちしたいと思っています。

さて、この度、この5年間の東日本大震の被災者支援活動レポートをとりまとめましたので、是非、ご一読いただければ幸いです。

ジョイセフ東北支援レポート-1

ジョイセフは、世界の妊産婦や女性の命を守る使命を持つ国際協力NGOとしてさらに尽力してまいります。皆さまの引き続きのご支援ご協力をお願いいたします。


公益財団法人ジョイセフ
常務理事・事務局長
鈴木良一
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by joicfp_rio | 2016-03-09 17:45
荻野久作先生の志をつなぐ
今から86年前の1930年(昭和5年)2月22日は、日本の荻野久作医師(産婦人科医、1882年~1975年、新潟県にある竹山病院第3代院長)による排卵期に関する論文がドイツの医学誌に初めて掲載された日にあたります。

新潟県新潟市の竹山病院に勤務していた荻野医師は、病院に来る女性患者たちの厳しい現実を目の当たりにしていました。農業等の重労働による過労や頻繁な妊娠と多産のために亡くなっていく女性たち。「足入れ婚」の風習の残る時代で、「嫁して三年子なくば去る」という社会背景で、不妊のため離縁され自殺に追い込まれた女性たち。多くの「悲劇」に接するたびに彼は産婦人科医として、何かできないものかと思うとともに、専門医として多くの命をなぜ救えなかったのかという自責の念にかられていました。

荻野医師は、排卵と月経の因果関係に関する研究を通して、多産を予防し、不妊症の女性を救う方法を模索していました。多くの患者の月経記録や患者の聞き取りから、月経カレンダーを200人に上る女性に記録してもらい、ついに排卵期についての、ある法則を発見できたのです。それまでの通説では月経から14日~16日が排卵期とされていたものが、荻野医師の実証的な研究で、排卵期が次回の月経から12日~16日(約2週間)前にやってくることが判明したのです。これにより女性の命が救えるはずであると彼は確信を持ちました。

しかし、当時の日本の産婦人科分野の専門家たちは、定説を曲げてまで、新潟県の一医師の発見を受け入れる者はいませんでした。

荻野医師は、自分の研究成果は日本では厚い壁にぶつかって認められないと考え、1929年8月、自費で一人ドイツに旅立ったのです。

ドイツの産婦人科医30余人に学説を説いて回りました。荻野医師は、ついに、排卵期に関する研究成果を理解してくれる医師(フンボルト大学シュテッケル教授)と遭遇できました。これがきっかけで世界的に注目されるようになったのです。偏見をも持たず検証することのできる研究姿勢が、その時代のドイツにはあったのです。荻野医師は1930年7月に帰国。30歳から始めたこの研究成果が認められた時、彼はすでに48歳になっていました。

しかし、この説が発表されると、思わぬところから高い関心が寄せられたのです。この学説を逆転の発想で注目したのが、避妊方法としての応用を考えていたカソリック系の医師グループでした。当時カソリック人口は約4億人。この発見は当時のローマ法王ピオ11世によって賞賛されました。自然の摂理に逆らわない避妊方法として脚光を浴びることになったのです。

確かに排卵期でない時期の性行為には妊娠しにくいという効果があることは推測できます。しかし、これは完全なものではありません。人により排卵期もずれます。排卵時期にはそれぞれ幅があり、避妊に失敗することもありました。

荻野医師は、決して避妊方法を開発したわけではなかったのですが、皮肉にも世の中では、オギノ式が避妊方法として有名になったのです。晩年、荻野医師は、排卵期を確定するために研究したものが、このように活用され、それがあたかも、信頼のおけない避妊方法であるとされたことに、「無念さ」を感じたと表明しています。

女性の命を守りたいという信念を生涯持ち続けた荻野医師は、その後、中央から多くの大学病院の教授職などの招聘も断り、人生の最後まで新潟県の一産婦人科医を貫きました。その92年にわたる生涯をかけた女性の命を守るための情熱は特筆すべきものです。1930年から86年が経過した今日もその業績が偉大なものであり、避妊や不妊に悩む多くの女性にとって重要な学説のひとつとなっています。

女性に寄り添い、女性の命を救うために立ち上がった荻野久作医師の偉業に思いをはせ、同郷(愛知県豊橋市)生まれの大先輩である荻野先生の功績を改めて記憶にとどめたいと思います。


(2016年3月、東京にて)


公益財団法人ジョイセフ
常務理事・事務局長
鈴木良一
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by joicfp_rio | 2016-03-08 15:16


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