ジョイセフ事務局長 鈴木良一によるコラム
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「3つの遅れ」と男性参加-妊産婦の命を守るために
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妊産婦が命を落とす理由が以下の「3つの遅れ」によるものと指摘されています。それらは、



1.決断の遅れ

健康に関する情報や知識を得られない、または女性の社会的地位が低く決定権がないために、体調が悪くなっても、異常に気づいても、夫や家族の誰も病院や診療所に行くかどうかの決断ができないまま、手遅れとなってしまうことがあります。



2.搬送・アクセスの遅れ

病院や診療所までの距離が遠く徒歩ではたどり着けない、代わりの交通手段もないという地域がたくさんあります。仮に交通機関があっても、料金を払えないこともあります。



3.治療の遅れ


やっとの思いで病院や診療所に着いても、適切な治療が受けられないことがあります。
手術や輸血が必要でも、必要な機材や医薬品が不足していたり、専門の医師がその場にいないこともあります。また、必要な医療費が払えないこともあります。





最初の「決断の遅れ」を解決するために、私たちは、「男性の参加」、「男性の巻き込み」が重要であることを訴えてきました。

ジョイセフが実施する母子保健関連のプロジェクトには必ず必須活動項目として「男性の参加」の促進活動を加えてきました。

夫やパートナーである男性が、妊産婦に危険なサインがあれば即座に判断し、医療施設に運び込むことができれば、多くの命を救うことができるのです。
この「決断」が行われなければ救える命も救えないのです。

男性の協力・参加が妊産婦の命を救う、当たり前のことのように思えますが、それが、実践されていない悲しい現実がいまだに多くの国々や地域にあるのです。

現在、妊産婦死亡数は、毎年28万9000人、毎日800人の女性が妊娠や出産が原因で命を落としています(2013年国連機関)。この現実を変えるには、男性の参加を促すと同時に、社会の意識改革も合わせて呼びかけていかなければなりません。

一人の妊産婦の命を救うためには、夫や家族の協力のほかにも、女性が住む地域社会の支援が必須なのです。

「搬送やアクセスの遅れ」については、近隣の人々やコミュニティも参加し、搬送手段を確保できたという事例を多く見ています。町ぐるみや村ぐるみで妊産婦の命を救うという多くの好事例があります。

「治療の遅れ」の解決には、多方面の介入が必要ですが、取り分け個人負担を軽減する財政的な支援が必要です。お金がなければ治療してもらえないということであってはならないと思います。

この「3つの遅れ」の背景にあるもうひとつ大きな壁は、ジェンダー(社会的・文化的性別)によるものです。
そして、その解決には、さらなる努力と時間が必要です。男性上位社会の多くの国々では、依然として、女性が声を上げられない、あるいは、声を出せば、それを夫やパートナーの暴力により阻害されるなどの出来事が、いまだに日常的に頻繁に起こっているのです。

「3つの遅れ」をなくすためのも、私たちの挑戦はこれからも続きます。



(2014年12月、東京にて)
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by joicfp_rio | 2014-12-15 17:42
ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)デーに考える
2012年12月12日の国連総会において「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」を国際社会共通の目標とすることが、全会一致で議決されました。これを受けて、世界銀行、世界保健機関(WHO)や関連研究機関、NGOなどが共催しUHCを啓発する記念日として2014年12月12日を「UHCデー」として、各種イベントを開催することになりました。第1回目となる今年のテーマは、「UHC:Health for All」です。すべての人々の健康のために、ジョイセフも保健分野の国際協力NGOとしてこのイベントに参加し、積極的なアドボカシー活動を推進します。

WHOの定義によれば「UHCとは、すべての人々が良質な保健医療サービスを、必要な時に負担可能な費用で享受できる状態」とされています。
すでに広く認識されているように、近年、開発途上国においても疾病構造が大きく変化し、以前の「感染症」対策のみだけでなく「非感染症」対策もあわせて必要となっています。その意味からも、UHCが必要とされる状況がますます増加していると言えます。

また、一方、日本はUHC達成に成功した先駆的な国のひとつとしても知られており、知見や経験を提供できる国として、国際社会から大いに期待されています。日本は1961年から「国民皆保険制度」を実施し、その制度を、半世紀以上にわたって維持継続してきた国なのです。そのことで、世界の多くの国々から、その政策立案の指導や戦略づくりの知見の提供に期待が寄せられています。

1961年、国民皆保険制度が完成した当時の日本は、所得倍増計画が始まった年であり、今とは異なり高度経済成長期の初期段階にあたりました。日本が、開発途上国の一員にすぎなかった状況であったとも言えます。当時の日本人の国民所得が低い状況にあったことからも、画期的な制度が実施されたことになります。それがゆえに、現在中進国からも、日本の制度に熱い視線が注がれているのです。

UHCの道筋が国によって違うのは当然ですが、UHCの目標である、すべての人々が質の高い医療サービスを受けられることが保障され、公衆衛生上の危険からすべての人々を保護し、本人や家族が病気になった際の医療費の自己負担額や所得喪失による貧困化からすべての人々を守るためにも、今年からの「UHCデー」の制定・実施は、あらゆる面で大変意義深いことです。

現在、多くの国々で、保健システムの強化やプライマリヘルスケアの復権が叫ばれていますが、UHCによる横断的な政策・戦略づくりへの介入は、各国の包括的で持続可能な保健システムの構築に欠かせないものであると、私は考えます。その意味から、日本の成功例も失敗例もこれから続く国々にとっては、重要な教訓や好事例となると思います。

ただし、国際社会で機が熟していると言っても、UHCの拡散を急ぐのではなく、まずは、各国の現状をしっかりと踏まえた取り組みを、各国の関係機関と研究・調整していくことが求められると考えます。また、制度づくりには、その国のオーナーシップ(自主性)を踏まえたうえで、取り組まなければなりませんし、よきパートナーシップを提供していかない限り、新しいシステムは決して浸透しないことを考えながら行ってほしいと思います。「UHCデー」をよいきっかけにして、幅広い中長期的な視野に基づいた議論の行われることを期待します。

現在、世界には、生活に困窮し適切な医療サービスや必要なケアを受けられない人々がおよそ10億人いると推計されています。UHCが国際社会の共通目標として広く認識されるようになるまで、そして、すべての人々が健康を享受できるようにするために、12月12日を人類共通の歴史的な大切な一日にしようではありませんか。

(2014年12月、東京にて)
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by joicfp_rio | 2014-12-11 17:25


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